銅は、私たちの暮らしを支える様々な分野で大きな役割を果たしています。日本伸銅協会は伸銅工業全般の進歩発展に貢献しています。

銅と健康

銅と健康

はじめに

銅はいうまでもなく安全な金属です。それ以上に、鉄や亜鉛とともに人間や動植物すべての生命と健康にとってなくてはならない栄養成分です。私たちの 毎日の銅摂取量は2mg前後で、ほとんど食べ物からとっています。食事の内容や地域の差によって1mg、多くて10mgほどの幅があるといわれています が、世界中どこでも、日常生活で銅の欠乏や過剰(中毒)をみることはありません。人間の銅に対する調節能力がすぐれているからですが、このため逆に、微量 栄養成分として不可欠のものであることが注目されないのかも知れません。

また、銅鉱山や精錬所、伸銅などの加工工場でも銅による職業病は知られていません。症状以前の、生理的な影響すらないことが調査されています。

銅のさび・緑青についても、長い間、たいへん危険なものであるとの考えが支配的でした。不思議なことに日本だけのことです。根拠のないま ま、教科書や辞典類がとり上げ、また親から子へと口コミでこの考えが広まったようです。今では動物実験で完全に否定され、この種の記述を見ることはなくな りましたが、まだまだ誤解されている方もおられるのではないでしょうか。

緑青は無害

日本伸銅協会は昭和37年、緑青の長期動物実験(急性慢性毒性)を東京大学医学部衛生学教室、豊川行平教授(医学博士)に研究実験を依頼しました。 しかし教授は、「緑青は水にもお湯にもまったく溶けない物質なのに、これを動物実験で検査することはナンセンスで緑青に毒はない」と主張し続けました。

動物実験中の豊川教授

動物実験中の豊川教授

3年後、実験研究の内容は学術報告書に詳しくまとめられ、結論的に豊川教授は「銅塩はそれが何であろうと、従来考えられていたような恐ろしい猛毒という知識は間違いで、他の金属と比較して毒性は大差ない」という見解を発表しました。

人は毎日2~5mgの銅をとり、 同じ量を排出する。

人は毎日2~5mgの銅をとり、同じ量を排出する。

この実験の学術報告書は直ちに厚生省のN技官に提出、緑青無害への是正を申し入れました。N技官は「内容は高く評価できるが少し時間がほしい」ということで、十分な検討がないままN技官は異動転勤し時が過ぎました。

一方、(社)日本銅センターでは昭和49年、前回の実験研究を再度、東京大学医学部衛生学教室、和田攻助教授(当時)に依頼し、同じテーマ の中に更に遺伝面での影響を追求課題にし、3年間に亘り急性・慢性毒性の実験研究を行いました。結論的には塩基性炭酸銅、硫酸銅を用い口経投与し観察しま したが、前回豊川教授が行った研究とほぼ一致し、遺伝面でも成長率、生存率、妊娠・出産などすべて障害になる作用は所見されませんでした。

動物実験中の和田教授

動物実験中の和田教授

その後、第2回目の学術研究報告書を厚生省に持参したのは、第1回目の研究の終了から数えて約10年目でありました。その間、厚生省の担当官は何回も変わり、その都度是正に向けて説明を繰り返し続けていたのですが、昭和55年春、10年前担当されたN技官が同じポストに再度着任したのです。そこで偶然にも過去の学術報告書の説明を聞くに及んで、「まだこの問題は終わっていなかったのか、一体何をしてたのか」と発憤し、自から先頭に立ち、是正に向けて検討を続けてくれました。その結果、1年後の昭和56年春、国の予算化が決まり、「銅緑青の毒性に関する動物実験」が、国立衛生試験所、国立公衆衛生院、東京大学医学部の3ケ所で実施されることとなりました。

国が行った研究結果は3年後の昭和59年8月6日厚生省記者クラブで発表され、翌7日、新聞、テレビなどマスコミを通じてその全貌が公表されております。結論は、過去に東京大学医学部衛生学教室で2度に亘り行った研究実験とほぼ一致し、「緑青は無害に等しい」という判定が下されました。

銅の抗菌効果

銅には殺菌・消毒作用があり、昔からその抗菌性を利用した用途が多いのです。この「極微動作用」はオリゴディナミー(Oligodynamie)のことで、一般には微量金属作用といわれます。この現象は古くから知られており、19世紀末、スイスの植物学者 Von Nageli が、銅や銀の容器の中では緑藻が発生しないこと、またこれらの金属塩を少量加えた水も同じ効果を示すことに気付き、これをオリゴディナミーと呼びました。

大腸菌の変化

大腸菌の変化

黄銅の吊り輪、銅貨は無菌であり、実験的にも銅貨・黄銅貨は培養したチフス菌や大腸菌を死滅させること、更に近年猛威をふるった病原菌 O-157 に対しても銅・黄銅は極めて高い抗菌効果があることが認められております。また銅製の給水管の使用で上水道の一般細菌が減少することなども確かめられています。昔から「銅壷の水は腐らない」とか、「銅の洗面器を使うとトラホームにならない」、「水たまりに銅片をいれればボーフラがわかない」といった話がありましたが、この銅イオンの持つ殺菌、防藻、防汚作用の本態は今だ明かではありませんが、いくつかの応用例を示すと次のようなものであります。
health5 health6 health7

  • プールや水族館、風呂、噴水池などに僅かな銅イオンを加えて、殺菌・殺藻をする。
  • 下水処理場で最終沈澱池の側壁や越流トラフ周辺に銅板を使い、藻や蚊の発生や悪臭を防止する。
  • 船体や海中構築物に海中生物が付着しないよう、亜酸化銅を塗料として塗ったり、キュプロニッケル・洋白などの銅合金を使う。また、魚の生け簀に銅合金線を使用する。health8
  • 流し台のバスケットや三角コーナーに銅板を使用し、ぬめりや悪臭を抑え、また水質の保全を図る。health9
  • ドアの取手や扉のノブ、階段の手すり、エレベーターなどに銅・黄銅などを使用し、衛生上の抗菌効果を利用する。これらは特に病院などに効果的で、院内感染を防止する。
  • 足のむれ、防臭、水虫対策として銅を編み込んだ靴下、靴の中敷やタオルなどが製品化されています。

health10

 

銅とからだ

health11銅は、全 ての高等動物および植物の生命維持、成長、繁殖に欠かすことの出来ない重要な金属であります。銅が欠乏すると、作物は枯れ、動物は成長が遅れたり、体毛に 異常が生じたり、運動能力の失調により終には死に至ります。人間の場合には、貧血を起こしたり、動脈硬化が促進され老化を早めると言われています。

人間や動物の体内には赤い血液が流れています。この赤い色素はヘモグロビンという鉄を含む蛋白質です。このヘモグロビンは酸素を運 ぶ役目をしています。鉄は血液の重要な成分であり、これが不足すると貧血を起こします。銅は、このヘモグロビンを造る過程で需要な役割を果たしています。 鉄が体内に充分存在していても、銅がなければ血液が造れないため、貧血に至ることがあります。これを銅欠乏性貧血と呼んでいます。

健康な鼠が血液の蛋白ヘモグロビンを合成するのに鉄と銅の両者が必要であることが発見されたのは、今から70年も前のことです。動物の銅欠乏症は、先進国 でも開発途上国でも、牧草を食べる羊や牛に認められています。米国では七面鳥の心臓病防止のために飼料に銅を添加しているとも言われています。銅はヘモグロビンの合成の役割とは別に、神経機能、結合組織、骨の形成、過酸化物基からの保護、受精と生殖、心臓血管システムなどに深 く関わっていることが最近明かになってきました。銅酵素が体内における様々な酸化・還元反応の触媒となっていることも明かにされつつあります。

通常、私たちの食物の中には微量の銅が含まれているため、典型的な銅欠乏症となる危険性は少ないのですが、以前、精製したミルクだけ飲む乳児にこの症状がみとめられました。現在のミルクには意識的に微量の銅塩が加えられているので安全です。

銅は、種子や穀物類の他、海の生物、特に、ノリやワカメなどの海藻、エビやカニなどの節足動物甲殻類、イカ、タコ、カキなど軟体動物に多く 含まれています。これらの動物の呼吸酵素は、銅を含むヘモシアニンです。酵素を取り込んだこれらの動物の血には青みがかった銅の化合物が含まれています。

PAGETOP
Copyright © Japan Copper and Brass Association All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.