世界の伸銅産業
はじめに
世界の伸銅産業はここ10数年の間にダイナミックに再編された。まず’93年の欧州統一市場の発足を睨んで’80年代後半に欧州の伸銅業の再編が始まり、伊、独、仏の最大伸銅メーカーが集約されたKME (KM-Europa Metal) グループは年産能力80万トンの世界最大の伸銅品生産グループとなった。またフィンランドの国営総合金属企業 Outokumpuは欧州各地の他、米国第2位の板条企業を買収して、年産能力50万トンの世界第2位のグループとなった。その他、独の Wieland グループや、スエーデンの Boliden グループなども独自の路線で買収を進めた。
次に動きが見られたのは米国である。長い景気拡大に支えられて企業体力を増した伸銅企業は、国内の再編や能力の増強と共に、欧州やアジアへの進出が進んでいる。
また、’97年の通貨・経済危機により停滞傾向を強めたアジアであるが、’99年に至って急速な回復を見せた。更に経済社会のIT化がそ の成長力を増すことも期待されていたが、’00年後半に入って米国を始めとした世界景気に陰りが出始め、その影響を受けて再び鈍化傾向に転じている。そう した中にあって、民営化と市場開放に成功しつつある中国は「世界の工場」としての高い成長を続けており、さすがに’01年に入って輸出に鈍化傾向も見られ 出したが、その人口と高い潜在成長率への期待はまだ大きく、WTO加盟もあり外国企業の進出が進んでいる。
日本産業の空洞化が懸念される程の日本企業の進出により、日本との関係が深かったアジア地域であるが、総じて高い潜在成長性を有する地域には変化なく、世界の主要伸銅グループの進出など熱い視線が向けられている。
欧州伸銅業の再編
’80年代初めの欧州伸銅業界は、電線・ケーブルも共に生産する企業が多かった。’80年代前半の不況時に、これをどちらかに絞ろうという動きが生じた。例えば、フランスの Trefimetaux は電線部門を Alcatel に、イタリーのLMIは Wire Rod 部門をPirelliに、ドイツの Kabelmetal は電線会社の Kabelmetal Electro を当時の Cables de Lyon(後のAlcatel) に売却した。 また、英の Delta は電線会社であり、押出製品は製造を続けたものの、圧延品からは撤退した。
こうして、’80年代半ばには伸銅専業の企業となったが、当時は国営企業も多く、欧州市場は国別には分かれていたが、米国のように製品別に分かれていた訳ではなかった。米国は Olin と American Brass、PMX が板条、Mueller や Cerro、Wolverine が管、ChaseやMueller、Cerro が棒に代表される分け方が出来る。
欧州統一市場の発足によって、どこからでも自由に製品を入手でき、運賃コストもどこもそう変わらない、また現実問題として今後は需要面で 大きな増加は期待し得ないとすると、欧州市場も製品別市場に集約すべきとの考え方が出てきた。即ち、大企業にとってはスケール拡大によるコストダウンを実 現し、対外的交渉力を増すという選択肢があるし、一方、小企業は市場を選び、小回りを利かせるという個別の対応が図られた。
現在、欧州の伸銅業界のグループ化は5大グループに代表されるが、これも製品によって若干違った集中形式となっており、板条製品については集中度が高いが、銅管そして黄銅棒という順で集中度は低くなっている。
A.Outokumpu Copper Products Group
まず、国境を越えて大きくなろうとしたのが、北欧-フィンランドの国営(現在40%政府保有)総合金属企業 Outokumpu である。 ’86年にスエーデン最大の家電メーカーElectrolux が伸銅事業から手を引くため Metallverken を売りに出した。この時Outokumpu自身は自国の Pori で銅管と銅・黄銅板条を主力に生産していたが、主要用途が建築向けであり、それ程品質的には高くない需要分野であった。一方、Metallverken は総合メーカーであったが主として圧延品が主力で、電機・電子用合金の高品質品と、またオランダの Zutphen でラジエータ条を専門に生産していた。フィンランド、スエーデンは地理的・文化的に極めて近く、また小さなスカンジナビア市場でこの2大メーカーが競合し 合える余地はなく、買収は順調に行われた。
Outokumpu がEC域内市場への足掛かりとして選んだのが、スペインの Ibercobre であり、この時の買収の方が反響は大きかった。しかしこれが Outokumpu にとって問題ももたらす。即ち欧州全体のオーバーキャパと採算悪化であった。’90年には米国第2位の板条メーカー American Brass を買収し、世界的規模の伸銅グループとなった。
更に最近では東南アジア市場に狙いをつけ、’97年には中国に85%出資の銅管工場(Outokumpu Copper Tube (Zhongshan) Ltd)、’98年にはマレーシアのジョホールバルに銅管と電気用伸銅品を生産する工場(Outokumpu Copper Products (Malaysia) Sdn.Bhd.)を立ち上げ、’99年にはタイで日立電線との合弁銅管工場(Outokumpu Hitachi CopperTube (Thailand) Ltd)に参画(64%出資)し、現在の年産能力50万トン、世界第2位の伸銅品生産グループである。
しかし拡大路線だけではない。スエーデンのMetallverkenが保有していた黄銅棒設備は’98年に Hexagon に売却(現 Nordic Brass)、また同国の銅管工場 Granefors Plant をフィンランドのPoriとスペインのZaratamo 工場に集約、米では電子材の Kenosha 工場を閉鎖して American Brass に集約すると共に、’99年7月から American Brass の黄銅溶接管の生産を中止している。
’01年に入って、中国の銅管工場の年産能力を’02年半ばまでに現在の2倍の2万トンまで引き上げる計画、また Outokumpu American Brass の近代化・拡張計画(投資額91百万US$)を発表している。
同グループの’00年の合計生産量は 468,000トン(LOCSA含む)(’99年 435,100トン)であった。
B.KME Group
世界一の伸銅企業グループとなったのが KM-Europa Metal (KME) グループで、積極的意志を持って’87年にキーアクションを起こした。当時、仏の大アルミ生産グループPechiney はアルミと競合する伸銅会社 Trefimetauxを抱え、これはグループの中にはそぐわない存在であった。伊の国際的持株会社 Societa Metallurgica Italiana( Orlandoファミリー傘下)はこれを買収し、自国の子会社である La Metalli Industriale から発展させたEuropa Metalli-LMI にこのTrefimetaux の経営権を委ねる。Trefimetaux は損金を出し続け投資が遅れていた一方、LMIはかなりの投資が行われていた。SMIは同じ年にスペインの SIA-Santa Barbaraの株を取得し、傘下に収めた。
このグループの独の Kabelmetal の吸収合併も元々からあった長い話である。親会社のエンジニアリンググループであるMANグループは、Kabelmatalを売ってスペインのエンジニア リンググループを買収しようとしたが、これが独占禁止法に抵触した。しかし結局SMIはKabel の株式の76%を取得し、板条と銅管に関してその力を強めた。Kabelmetal自身、’87年に独国内の Stolberger を、また’88年には R & G Schmole を買収しており、独で最大の伸銅メーカーであった。
即ち、SMIは伊、仏、独3国の最大伸銅企業を有することとなった。このような経緯から合併当初は伊の LMI が中心と見なされたが、当時ははっきりとしたコントロール系統が見られず、Trefimetaux の合理化は進められていたものの、グループ各社の独立した運営にまかされていた状況であった。その後、独の KM Europa Metal(名称変更)を中心にして、伊の Europa Metalli (名称変更)と Trefimetaux を100%子会社とする組織変更を行い、指揮・運営系統の統一が図られた。SMIは’99年12月にKMEの持ち株をそれまでの 73.07%から 98.7%に、更に’01年3月末には99.2%に拡大している。
この間、Outokumpu グループも同様であったが、スペインの買収事業は長引く経営不振に悩まされていた。特に圧延製品分野で、この2大グループが競りあえる市場ではなく、’92年に LOCSA (Laminados Oviedo-Cordoba SA ) という2グループ折半出資の会社が設立された。これは Outokumpu が買収した Ibercobre の Cordoba圧延工場と、SIA-Santa Barbara の Oviedo 工場の圧延設備を合併したものである。採算面でも改善しているようで、’99年に両グループは少なくとも後3年は LOCSA の操業継続で合意している。
またアジア市場に関しては、中国にコイルセンター(KME Metals (Dongguam) Ltd)を設立した他、’98年には銅管工場(Changzhou KME Copper Tube Co.,Ltd.)を建設、素管はTrefimetaux から供給している。
’01年に入って、Trefimetaux の持つ黄銅棒2プラントのうち、Pont de Cheruy工場閉鎖を発表した。能力過剰マーケットでの収益低下を背景にしたものである。
更に長年の構想である米国進出も企業買収の形で行われると見られているが、まだその詳細は定かでない。同グループの’00年受注量は 871,689トン(うちKM 349,803トン)、’99年は810,328トン(同296,929トン)であった。
C.Wieland Group
板条製品を主力に南独の Ulm でキャパを拡大してきた Wieland Werke は、’87年に同国の Langenberg を買収した。 Langenberg は William Prym とのJVで、熱延素条の供給会社である Schwermetall とも関係していた。また、’88年には小さいが特殊銅合金板条では効率的な英国の B.Mason & Sons を吸収した。アジア市場に対しては、シンガポールにコイルセンターを設立している。
以降、あまり動きのなかったグループであったが、’99 年になってオーストリアの Buntmetall の買収(75%出資)を発表した。どちらかというと板条の圧延品指向と見られていたグループであるが、Buntmetall傘下の2会社 (Enzesfeld-Caro Metallwerke、Buntmatall Amstetten) は銅管や銅棒、青銅製品など押出品の工場であり、新しい動きと云える。
そして、’00年8月に至って、米国の最大板条メーカー Olin との技術提携を発表した。これはコネクタなど高性能材の保有特許製品の相互生産、新材料の共同開発を進めるもので、今後の動きが注視される。更に、三菱伸 銅からは溶接内面溝付銅管のライセンス供与を受けている。
同グループの推定生産能力は年間約35万トンと見られる。
D.Boliden Group
スエーデンの鉱山・冶金会社 Bolidenは、’87年まで伸銅事業には興味はなかった。しかし、ゴム産業にル-ツを持つコングロマリット Trelleborg に買収されてから、積極的かつ急速にその手を拡げて行った。その方針は明確に水道用銅管と黄銅棒の押出製品に絞られた。まず、’87年に小会社の Boliden Bergsoe が同国の Gusums という押出メーカー(デンマークにも黄銅棒工場を持っていた)を買収した後、’88年にはベルギーの Cuivre et Zinc(UCZ)の押出設備(圧延設備は Lamitref が買収)、’89年にはオランダの Lips Drunen Metallwerke(LDM)の黄銅棒設備(これより先に油圧押出設備は一部の従業員によって買い取られ、HME-Hydrostatic Metal Extrusion として操業中)、そして’90年には英国 McKechnie グループの押出部門を買収している。 しかし、’92年になって、さすがに4ヶ所で同じような黄銅棒を作っている必要はないとの判断から、デンマークの黄銅棒工場は閉鎖した。
’99年に至って、これら4会社の売却オファーを発表し たが、その売却には時間が掛かりそうとの見方が多かった。しかし、’01年になり、これら4会社を統括する Boliden Fabrication AB はベルギーの Boliden Cuivre & Zinc を売却する旨の基本的合意に達したと発表した。会社間負債を清算しての譲渡となるが、まだその相手先は明らかになっていない。即ち、銅管事業を大幅に見直 すことになるが、スエーデン、オランダ、英国の黄銅棒プラントは、同グループが銅・黄銅スクラップの扱いも多いことから、運営を継続するものと見られる。
同グループの’00年の生産量は銅管4万トン、黄銅棒・線8万5千トンであった。
E.Diehl Group
独で時計や自動車部品、航空部品、制御機器、武器などと共に、黄銅棒・管を主力に生産を行っているDiehl Metallは、子会社 Sundwiger Messingwerkで特殊銅合金板条を生産している。’97年にフランスの板条ファミリー企業 Griset S.A. を買収、’99年に中国にコイルセンター(Diehl Metal (Shenzhen) Co.Ltd) を設立、’00年に入っては米国のりん青銅メーカー The Miller Co. を買収し、電子産業向け合金条部門で力を強めている。
同グループの年産能力は約16万トンと推定される。
米国伸銅業の再編
1920年代の産銅資本の流入、’70年代末から’80年代初めに掛けての石油資本の買収や企業淘汰を経験してきた米国伸銅業にとって、’92年以 降の長い景気拡大は体質強化を図る絶好の機会となった。順調な内需拡大に支えられ、また対外的な攻勢に対してはダンピング提訴という強権をちらつかせる大 きな武器がある。
欧州の再編が始まった80年代後半から90年初めにかけては、Outokumpuの American Brass 買収や韓国メーカー Poongsan の PMX Industries 設立という板条分野での動きが見られたが、国内伸銅メーカーの大きな動きはなかった。しかしここ4-5年は、国内再編や能力拡充とともに、欧州や中国に目を向けた動きが活発化している。
A.Mueller Group
銅管と黄銅棒を主力に、継手や鍛造品を生産する Mueller Industries は、
’97年に仏のDesnoyers と、英の Wednesbury Tube の銅管メーカーを買収した。この欧州戦略としては、’99年に入って仏の2工場のうち Laigneville 工場を閉鎖して、Roissy 工場を空調向けACR管に特化すると共に、英の Wednesbury は配管材向けとして欧州市場に供給する体制を整え、Mueller Europa としてスタートした。また米国内では’98年に大手銅管メーカー Halstead Industries (KCPIの株15%保有)を買収して…現在 Mueller Copper Tube Products, Inc.として操業…水道銅管マーケットのシェアーを拡大した他、ガス機器マーケット向けバルブメーカー Lincoln Brass Works と、水道用製品問屋 B&K Industries を買収するなど川下指向も強めている。
同グループの年産能力は約31万トンと推定される。
B.Marmon Group (Cerro)
銅管と黄銅棒の大手メーカーであり、米国内では Cerro Copper Products として配管材(2億lb=92,000t/年)、Cerro Copper Tube として ACR管(1億lb=46,000t/年)、そして Cerro Metal Products として黄銅棒と各種部品を生産している。’98年になって、英国 Delta社の押出製品会社と部品会社の4社を一括して買い取り、現在当地の伸銅メーカーとしては Cerro Extruded Metals 及び Cerro Manganese Bronze社として運営している。
また最近 Cerro Copper はユタ州 Cedar City に銅管ミルと流通センターの建設を進めた。その目的は、顧客ベースがメキシコとカナダで拡大していること、そして東南アジアの銅管マーケットをターゲット としており、’01年下半期にフル商業生産が計画されている。
同グループの年産能力は約32万トンと推定される。
C.Wolverine Tube Group
米国内では銅管、カナダでは板条・棒線を含めた総合メーカーとして生産を行っているWolverine Tube は、国内では’94年に Small Tube Products、’96年には管パーツメーカー Tube Forming Inc、’97年に NIBCO の Special Products Group を買収した他、PMX Industries が計画していた溶接管製造会社である EcoTube を’99年に買収し、現在 Jackson 工場としてスタートしている。
また、’98年には北米以外の最初の工場として、中国・上海に銅管工場を立ち上げた。さらに’99年になって、カナダの条メーカー Ratcliffsと提携し、自社のカナダの Fergus板条工場と Ratcliffsを合併させ、Wolverine Ratcliffs Inc(WRI)として再編を進めている。
更に’01年に入って、欧州市場をターゲットとした工業用銅管工場をポルトガルのEsposendeに建設する計画を発表した。この工場は’02年第一四半期にフル商業生産を予定しており、年産能力2,500トンでスタートする。
また、カナダのRatcliffs の Richmond Hill圧延工場を’01年3Q末までに閉鎖し、Fergus工場に集約する方針を発表した。同グループの’00年の生産量は 178,000トン(’99年 175,600トン)であった。
D.Olin
板条の最大手 Olin にはこれまではあまり目立った動きは見られなかった。
’87年に日本との合弁 Yamaha Olin を設立、アジア市場への電子材の供給元とする動きはあったが、米国内ではIndianapolis工場での棒線管の生産を’99年に中止し、板条への集中 度を深める動きがある程度であった。しかし、’00年に発表された独の Wieland との技術提携は、共に世界を代表する圧延企業であり、電子材料分野で更に力を増すものと見られる。また、’01年6月、コネチカット州Waterburyに所在するMonarch Brass & Copper Co.を買収した。同社はMini millを保有して多少の加工を行うが、主として板条や棒を扱う流通業者ではあるものの、その子会社にWaterbury Rolling Mills Inc.という特殊銅合金板条(月産3,000トン)の圧延会社を保有しており、Olinの目指す「高性能合金の世界ファミリー」構築に向けて着々と進展する様子が伺える。
同社の年産能力は約23万トンと推定される。
E.Chase Brass
米国最大の黄銅棒メーカー Chase Brass は、’97年から Project 400 という能力アップ計画を進めており、これが完成する ’02年第2四半期には年産能力は4億ポンド(18万トン強)に拡大する計画であり、これに伴ってインフラも整備されるため、将来、少ない追加投資によって5億ポンドへの能力増が可能になると言われる。
同社の年産能力は現在16万トン程度と推定される。
その他の大手メーカー
A.Poongsan
韓国最大の伸銅メーカー Poongsan Industries は、’92年に米国で板条メーカー PMX Industries を立ち上げた。さらに93年にタイで合弁企業 Padaeng Poongsan Metals に参画(24%)、97年に中国の Kwangtangにスリッターセンターを開設した他、銅管工場を建設する計画を持つ。また2001年に入って、タイの板条、コインメーカー PPM Co Ltdを最終的に買収し、PSMT Co Ltd.としてスタートした。
韓国での’00年の生産量は 224,000トン、米国の生産能力は12万トンと見られる。
B.IUSA (Industrias Unidas)
メキシコの IUSA は銅地金や電線に加え、伸銅分野では銅管主力に棒や板条を生産しているが、’96年に100%子会社の販売会社 Cambridge-Lee を介して米国の銅管メーカー Reading Tube を買収した。
同グループの’00年の生産量は約20万トンと推定される。
C.Carlo Gnutti
イタリアの最大の黄銅棒主力メーカーである Carlo Gnutti は年産22万トン規模のファミリー企業で、米国 Chase と並ぶ黄銅棒のビッグ企業である。
(2001年10月更新)